ピロリ菌の症例写真と解説

内視鏡内科 消化器内科(胃腸内科)内科

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ピロリ菌の症例写真と解説

内視鏡の症例 ピロリ菌

内視鏡の症例 ピロリ菌
ピロリ胃炎の画像です。
白色の粘液が付着しており、血管が透けて見えます。
内視鏡の症例 ピロリ菌
ピロリ胃炎と同じ部位の正常の胃です。
粘液付着はなく、血管は透けて見えません。
内視鏡の症例 ピロリ菌
ピロリ胃炎の画像です。 襞のある部位には粘膜肥厚を起こし、白い縁取りと赤い粒状の構造が見られます。
内視鏡の症例 ピロリ菌
ピロリ胃炎と同部位の画像です。
まだらな赤みも粘膜浮腫も見られません。

ピロリ菌と慢性胃炎

人間ドックや健診で胃内視鏡を受診された経験のある方は、結果報告書に書かれた「慢性胃炎」の文言を見たことがあると思います。慢性胃炎とは、どんな病気でしょうか?治療が必要な病気なのでしょうか?
慢性胃炎の指摘された患者さんはなんら症状のないことが多く、また健診の判定でも要治療とはなりません。基本的には、経過観察(放置可能)と判定されることが多いと思います。慢性胃炎は、Schindlerの国際分類(1950)で、表層性胃炎、萎縮性胃炎、肥厚性胃炎に分類されます。このうち萎縮性胃炎はピロリ胃炎と呼ばれます。厳密にはB型萎縮性胃炎ですが、ここでは簡便に萎縮性胃炎=ピロリ胃炎とさせていただきます。ご存知かもしれませんが、ピロリ胃炎は原則、治療が必要です。すなわち、

慢性胃炎はピロリ胃炎であるかが重要です

ピロリ菌は正式名称、ヘリコバクターピロリと言います。1983年に初めて報告され、その後、胃がんや胃・十二指腸潰瘍の原因となる細菌と報告されました。現在では、無症状であっても原則的に除菌すべき細菌として保険適応されています。除菌治療の前に、ピロリ胃炎という胃内視鏡所見と、現感染を確認する細菌検査が必要です。
胃内視鏡でピロリ胃炎かどうかを判定するのは比較的簡単です。
その特徴は、


    ・粘り気の強い白い粘液の膜が胃の壁に張り付いていること(粘液付着)
    ・胃粘膜が薄くなり胃の壁を走る血管が透けて見えること(血管透見)
    ・丈の低い白色のポリープのような粒々が多発していること(腸上皮化生)
    ・正常胃粘膜で見受けられる粘膜表層の微小な赤みが消失していること(RAC消失)
    ・若い感染者に多い胃前庭部に密生する小さな隆起の集合体(鳥肌胃炎)

等です。
またピロリ胃炎が確認されると、同時に胃がんも発見されることが多いため、胃がんの胃内視鏡所見がないかを詳細に観察することも重要です。当院では通常の観察技術の他に、色素散布法、酢酸散布法、NBI観察法を駆使して胃がん発見に努めています。
除菌治療を行うためには、胃内視鏡所見に加えて、ピロリ細菌検査も必要です。ピロリ細菌検査には以下のものがあり、メリットとデメリットを簡便に書きます。

    ・細菌培養(細菌感染症のゴールドスタンダード。時間がかかる。)
    ・迅速ウレアーゼ試験(迅速な診断。除菌後には限界がある。)
    ・組織検査(最も簡便である。感度特異度がやや劣る。)
    ・血清抗体(血液検査で簡便。過去の感染を区別できない。)
    ・尿素呼気試験(除菌判定に有用。胃酸分泌抑制薬により偽陰性の可能性)
    ・便中抗原検査(除菌判定に有用。水様便では感度低下。)

当院では、ピロリ菌の除菌前検査として迅速ウレアーゼ試験と組織検査を行い、除菌後検査として尿素呼気試験または便中抗原検査を行います。

ピロリ菌除菌治療は1週間の内服薬です

ピロリ菌の治療は3種類の内服薬を1日2回1週間飲んでいただきます。入院や注射点滴は必要ありません。約1か月後に再度来院いただき除菌判定を行います。1回の治療で治療が成功する確率は、90%です。除菌失敗の場合は、3種類のうち1つだけ内服を変えて、再度治療します。2回目の治療で治療が成功する確率も、同じく90%です。2回目の治療が失敗すると、3次治療は保険外診療(自由診療)で行います。標準的な治療ではありませんが、1回目2回目とは種類の違う抗菌薬を使用した治療を行います。 ピロリ菌の治療に成功すると、胃がんが発病する確率は、6分の1に低下します。しかし、ピロリ菌による影響とされる慢性萎縮性胃炎は残っており、それはゆっくりと回復します。胃がんを起こすリスクはまだ残っているため、1年に1回は胃カメラを受けることがヘリコバクター学会より推奨されています。

私とピロリ菌

余談ですが、私とピロリ菌の関わりについても述べさせていただきます。私は大分大学医学部学生時代に、大分県民のピロリ菌感染の実態調査を全国学会で報告しました。ご高齢の方では80%以上、若年層では10%程度の感染率でした。県内の衛生環境の向上がピロリ菌感染率を低下させたと結論付けましたが、主な目的としていた、日本各地のピロリ菌感染状況の地域差を指摘するまでには至りませんでした。その無念さもあり、その後、大学院でピロリ菌研究を本格的に進め、ピロリ菌治療の動物実験を行い、全国学会での発表や国際学術雑誌への投稿を経て、医学博士号を取得いたしました。

ピロリ胃炎以外の慢性胃炎

萎縮性胃炎はピロリ菌が関連していますが、その他の慢性胃炎についても触れておきたいと思います。ピロリ菌感染者は減少傾向にあり、我が国の若年世代では10パーセント程度になっています。ピロリ胃炎以外の代表的な慢性胃炎として、慢性表層性胃炎をあげます。慢性表層性胃炎でも多く方は無症状ですが、炎症反応が活発なものではみぞおちや腹部左側、背中の痛みといった、多彩な強い症状を訴える患者さんがいます。多くは胃酸による粘膜障害を原因としており、十二指腸潰瘍や逆流性食道炎と同様の発生メカニズムです。 慢性表層性胃炎では、強い腹部症状と胃内視鏡の画像所見が一致しないことがあります。これも逆流性食道炎とよく似ており、胃内視鏡所見だけでは診断が難しい場合があります。胃内視鏡所見としては、胃の襞に沿って赤い筋が縦に走ること(稜線状発赤)や、多発する微小な赤み、などが特徴です。

炎症の強さから粘膜へ染み出した血液が胃酸により変色し、赤黒い斑点(ヘマチン沈着)が見られることもあります。治療は、胃酸による粘膜障害が原因となることが多いことから、胃酸分泌抑制薬(PPIまたはP-CAB)が有効です。そのほか、逆流性食道炎と同様に、アルコール減量や肥満の解消など、生活習慣の改善が有効な場合があります。

まとめ

    ・治療が必要なピロリ胃炎は、胃内視鏡と細菌検査により診断します
    ・ピロリ菌除菌治療は1週間の内服治療です
    ・ピロリ胃炎以外の慢性胃炎でも強い症状を出す場合があります

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